三豊・観音寺市医師会


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■ 歩くことの効用

今、世の中は健康ブームで色々な、健康食品(一部は本当に食品といっていいものから、薬品まがいのものまで)の宣伝や、或いは運動やその器具の宣伝がテレビを賑わしてます。

ここでは色々差支えがあるので敢えてそれらについて論評はいたしません。成るほどとうなずけるものから、中には到底信用できない眉唾ものらしきものまであります。

ただ一つ言えることは、私たちが医療機関で使用している薬物は、それが市場に出るまでには、効果判定から副作用に至るまで、一応基準で決められた約束事をクリアして出てきているものであるのに対して、テレビで宣伝されているものは、効果についての試験はその結果を公表する義務が無いということです。

例えば、育毛作用があるという毛髪剤が実に沢山宣伝されていますが、これらはその育毛剤の入った毛髪剤を使用した人達と、その成分を含んでいないもの(これをコントロールまたはプラセボといいます)を使用した人達とを比較して、育毛剤の入ったものを使用した人達のほうに明らかに育毛効果があったという試験結果に基づいていないということです。

厳密に云えば、そのコンロールを使用した人に、育毛の成分が入っているといって使用して貰って、育毛成分の入った整髪剤を使用した人に比べて、その人に効果が無かったということが、多人数の比較で証明されていないのです。それでも、薬品ではないから「育毛効果」の宣伝は違反にならないのです。

またある種のお茶を飲むと脂肪の吸収が抑えられるから脂肪をとっても安心ということが宣伝されています。これもそのお茶の成分の入っていないお茶を飲んだ人が、本物のお茶を飲んだ人に比べて、明らかに脂肪の吸収が高かったという事実に基づいていないのです。今宣伝されているものの殆どはこのように厳密な比較試験が行われていなくて、理論的にそう云えるというのに過ぎないものが実に多いのです。

それに比べて、今から私のいう「散歩」はお金もいらず、健康に対する効果、ボケ防止に対する効果がきちんと証明されているものです。

今、誰もが年と共に必ず訪れてくる物忘れや体の衰えは嫌なものとして、できれば避けたい、避けられなくても遅くしたい、そして健康に年をとりたいと願っています。

それには、「歩く」ということが非常に効果的なのです。或る重力を身体にかけるということが、頭にも骨にも有効なのです。今ボケ防止のためにと色々なものが工夫されています。中にはゲーム形式の問題を解くものもあります。それらのものすべてが、認知症予防になったという証拠はありません。イギリスから出ている権威ある医学雑誌で、ただ歩行のみが有効であったという結果が出ています。詳しいことは省きますが、歩行が脳に与える良い効果は多くの実験で証明されています。

ただ、歩くだけというのは、退屈してあまり面白くないということが欠点としてあります。しかし1日40分ぐらいですから、その間は何も考えない位の時間があってもよいし、音楽の好きな人なら、音楽を聴きながらでもよいし、周りの景色の季節ごとの変化を楽しみながらでもよいし、余り気にならなくなります。本当は速足歩き---1時間で4.5kmくらい---が良いのですが、不思議なもので、自分のペースで歩いているとそのうち意識しないでも早く歩いていることに気づくようになります。

よく体重を減らす目的で歩いたが一向に減らないということであきらめる人がいますが、体重を減らす目的には、40分そこそこの歩行は短期間には役には立ちません。40分をシャカリキに歩いても消費されるカロリーは250キロカロリー以下ですから、これはご飯1杯分ぐらいにしか相当しません。しかし歩くことによって筋肉が鍛えられ、その代り脂肪が消費されるので、体重はあまり変わらなくても体の「質」が良くなります。もし、体脂肪も測定できる体重計をお持ちの方なら、体重減少の割よりも脂肪の減少の割が少し多いことを実感できるでしょう。継続して歩けば、体重減少の効果も必ず出てきます。継続する一つのコツは、毎日の歩行距離と体重と体脂肪率を書き込んで表とグラフにすることです。

太っている人は、短期間で痩せようと焦って結局ダイエットに失敗していますが、よく考えてみると太るのは数年かかって太っているのです。2ケ月に0.5kgずつ太っても、自分も他人も全く気づきませんが、1年では3kg、5年で15kgです。それを2週間や1か月で痩せようと思っても必ず無理が起こります。成功しても必ずといっていい位、リバウンドといって、ダイエット以前よりも却って太ります。痩せようという気持ちよりも太らないという気持ちを持って歩くことを最低1年続けることが必要です。そうすれば体重減少という効果も必ず目に見えて実感できます。

足底に重力がかかる、「歩く」という動作は、脳を刺激することで脳の老化も防げます。

テレビの宣伝に乗せられて効果の不確かなものに無駄なお金を使うよりも、お金も要らず、効果の確かな「歩き」をしましょう。

1日おきに40分くらいから始めて、出来れば、昨日歩いたけれども今日も続けて歩こうというぐらいの軽い気持ちから始める方が、初めから毎日歩こうなどと頑張るよりも結果として長続きします。またいきなり毎日歩くと膝や足首が痛くなったりします。体に回復の時間を与えながら、自分のその時の気分、体調に従って気楽に歩き始めましょう。

歩けばあなたの老後は美しく健康的なものになります。